心臓





「ってお酒飲まないんかーい」


目の前で大量の料理を平らげようとする青年に思わずツッコミを入れたのは許してほしい。ここは酒屋なのに。



「酒!飲みながらの話じゃないの!?」

「さっきアンタ飲んでたって言ってただろ。それに俺未成年だし」

「え、嘘でしょ未成年?それで?」

「……俺は19だ」

「19って、え、老け顔なの?そもそも私なんか19の時からお酒飲んでたってゆーのに」

「(老け顔……)いやどんだけお酒好きなんだよアンタ、」



とりあえず突然の切り込み事件は水に流して、話の分かりそうな彼の話を聞くことにした。

因みにここは帝都(中心都市)の南、ボエロのいた店の隣街である。もう深夜であるというのに若者は賑わい、酒を交わし、騒ぎまくっている酒屋。いやもうただの溜まり場か。ここが個室で、騒ぎ声が壁越しであることが不幸中の幸いである。


今までの来襲者は自分の欲望や願いのために私の心臓を求める愚か者ばかりだったのだ。まあ初めて話し合ってみてもいいと思える青年がまさか、未成年の酒の飲めない男だったとは。

いやお酒が問題ではないのだけれども。

…そこが不思議なところである、彼は他人の懐に入り込みやすい類の人間なのだろう、うん、絶対。アオは溜息をつき、一旦食間休憩に入った青年の様子を見計らって会話を切り出した。


「改めて自己紹介ね、私はアオ。ご覧の通りオリガスの軍服着てるけど、ほんとは唯の流れ者だよ。君は?」

「俺はギルね、んで、ワケあってアンタの『ソレ』を探す旅をしてる最中だった。この国じゃ珍しくその制服を着崩す女があの酒屋に出没してるって聞いてたから、探しやすかったよ」

「だって暑苦しいんだよこれ。堅っ苦しいし」


その堅苦しい軍に自ら入ったのは誰だ、と今ボエロがいたらツッコんでいたことだろう。因みにこの国は真面目な軍人、軍属が多いため着崩してる人なんてそうそういない。それが逆に悪目立ちしていることにアオは気付いていないのだが。

目立つアオと薄い壁を考慮して、せめて会話の内容は聞かれないようにと、ギルは小声で続ける。まあ『悪の心臓』がここに在る、なんて大っぴらに公言する馬鹿はいない。


「…アンタ、警戒しないんだな俺のこと」

「警戒?するだけ無駄だと思ったんだよ。君は話の分からない野蛮人とは違うかなって、勘」

「、大層な勘だな。どうするんだよ俺が急にこのナイフでアンタを殺そうとしたら」

「身の危険も察知できないで保持者なんてやってられないって。見る目だけは自信があるんだから、私」


ニッと笑ってテーブル上の枝豆を一つ摘んだ。
ここに酒があれば最高なのに、と呑気なことを考えながらギルの話を待った。それに私を本気で殺そうと思うなら、さっきの場面で本気の殺意を持って襲ってきたはずだ、この男の実力ならなおさら。


「それで?流れ者の私に何の用かな旅人さん」





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