心臓
ギルは私を一瞥した後、目の前にあった食事全てを一気に平らげた。こっからが話の本題らしい。
「…まず聞いても驚かないでくれな」
「?うん」
「俺の父はアルベルト・オリガス」
「へえ、そうなん………………は?今なんて、」
「だから、この国のトップ」
「トップって、え?ちょっと待って君じゃあ、え?」
「……俺は国の統治者の息子ってことになる」
開いた口が塞がらない、というか唖然である。
アオは暫く丸い目を更に丸くさせ、枝豆を落とした。尚もギルは続ける。
「今は身なりも隠して変装してるからバレてないけど、事実はそれだ。……落ち着いた?」
「……おーけー、おーけー。とりあえずは、うん。えっとそれで、なんでわざわざ上の幹部達じゃなくて皇子様が心臓を探してるワケ?」
「俺は個別裏に動いてるだけだから。
ーーー全ては親父の為とか、国が勝つ為とか、そんな大層な理由のためにアンタの心臓の力を借りたいわけじゃないんだ……俺は。」
ギルはギュッと、太腿に置いた拳をきつく握った。
…欲は、この国をダメにした。
オリガスとエキストスが心臓を求めるのは、互いの国に勝ちたいから。そのために元は争いを好まなかったオリガスも戦闘員を集め、軍を作り、国を作り替えた。強国としてエキストスに張り合えるように、今では上が非道な事を行うことすら良しとした。味方につけるために、心臓を手に入れようと躍起になっているのが現状だ。最も、アオは心臓の保持者であることを隠して軍に忠誠を誓ったので、オリガスは既に勝利の切り札を手に入れてると言っても過言ではないのだが。
オリガスの上層部、そしてその周辺でアオが保持者だと気づいている者はギルが知る限りはいない。ただ才のある女、と認められているだけに過ぎないだろう、実際は分からないが。
「アンタが上に利用されてやるつもりはないのは、さっきの発言とか雰囲気でなんとなく察した。だから安心したよ。俺はアンタに躊躇することなく、目的を伝えられる」
上の奴らがアオが保持者だと知らない方が、好都合だ。アオにとっても、ギルにとっても、はたまた国にとっても。