心臓
「私はこの心臓を国のために使おうと思ったことなんて一度もないよ」
「……」
「っこのアマぁああああああ!!」
男は叫び散らしながらアオに向かって走ってきている。それを静かな目で見据えた彼女は居合いをするように体勢を低く沈め、斬りつける一瞬を待っていた。
ーーーーその姿はとても孤独で、寂しそうに見えたのは、俺の気のせいなのだろうか。
そして、事はあっという間だった。
アオのたった一振りで、ハイドロの上半身と下半身は真っ二つに引き裂かれた。それに悲鳴をあげる人もいれば、良くやったと歓声を上げる人もいれば、…何か恐ろしいものを見るかのように、アオを責める目もある。
先程よりも鮮明に血が飛んだあと、男はうつ伏せに倒れこんだまま動かなくなった。
だがそれはアオも同じだった。傷がついたのはハイドロのはずなのに、傷ついた顔をしているのはアオのような気がして、俺は何故か堪らなくなって。無意識のままアオの傍に寄る。
「……アオ、」
「ーーー"魔女"を探しているの」
「!」
魔女。
この地には不思議な力を持つ1人の女がいる。
この世で一番尊いとされる願い、何を犠牲にしてでも手に入れたいという想いが魔女に通じた時、その者の渇望を聞き入れ、叶えるとされる、言い伝えの様な曖昧な存在。
「私は必ず見つけてみせる。この心臓の力を封じるために…そのために今まで旅をしてきた」
(もう誰も傷つけてしまわないように)
それが私の答えだよ、ギル。
「……わかった」
「なにを?」
ギルはアオの両肩を勢い良く掴んだ。驚きで目を見開いたアオの目に映ったのは、希望に満ちた顔をしたギルのなんとも興奮した表情。