心臓




グルーリーは完璧に貼り付けた笑みを崩さないまま、ゆっくりと脚を組み直す。


「ーーーもしその噂が本当でも貴方に力を貸すつもりがない、と言ったら貴方達はどう出るの?」

「生憎お金はないし、貴女とは初対面、信用にも値しない。うーん、状況は最悪ですね」

「……」

あはは!と呑気に笑うこの馬鹿にイライラするのは俺だけだろうか。

アオはいい事思いついた、と呟いてこんな提案をした。

「ここは質屋だしお金だけで成り立つお店なんだろうけど、そうだなあ、何かお願いして下さい、私達に。頼まれた仕事は死ぬ事以外であれば何でもこなしますよ」

「信用は、信頼を得るよりも難しいわよ」

「そうですね。だから一回くらい賭けてみません?あの刀で死ななかった私と、主に認められた青年のコンビですよ、ある意味最強ですよ私たちは!」


大口を叩くがなんの根拠もない台詞である。
依頼内容すら言われてないのに何でもこなせる発言は如何なものだろうか。暗に「何も証拠は無いけど信頼して下さい!」って言っているようなものである。呆気にとられた顔のグルーリーを見て、ギルは更に鏡までの道程が遠退いた…と溜息を溢さずにはいられなかった。



「嗚呼でもグルーリーさん、これでも私はね」

「…?」

「依頼主の期待に応えなかった事は、過去一度もないんですよ」



力強い彼女の自信を持った言葉に、また大きく目を見開くグルーリーは、フッと緊張した空気を緩めるように笑みを零した。


「…全く、生意気なお客様もいたものね」

「へへ」

「じゃあ早速手始めに。ひとつお願いするわ」

「はい?」



「店の外にいる厄介者を追い払ってきてくれるかしら?」




ーーーここは窓も何もない、閉ざされた部屋であるはずなのに。彼女はいつ、どうやって店の外の様子に勘付いたのだろう?

まあそんな事を考えてももう遅い。

アオがグルーリーを見て微笑んでから、二人は一変してゆっくりと立ち上がり、真剣な顔で部屋を後にするのだった。






「(……嗚呼、とってもいい顔をするのねえ)」

ーーー興奮を抑えられずグルーリーは二人の若者の横顔を思い出し、一人、身体を震わせていた。



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