心臓
「カルラ様!」
後ろから煩わしくも付いてくる幹部のフランクにカルラは振り返らない。
「良かったので……?保持者だとしたら、手練れどころでは…」
「はぁ、少しは黙れ、フランク」
と、ぶっきらぼうに言う割にはその声色は楽しそうである。
ーーーーカルラは一瞬で見抜いていた。
あの恐怖に怯えながらも挑んでくる闇を抱えた目。
相当場数を踏んできているあの気、そして彼女を纏う独特な雰囲気と佇まい。
…分かるものには解る。
あれは、『心臓』の保持者だ。
嗚呼。
口角が上がるのを止められない、新しい玩具を見つけた子供のように湧き上がってくる興奮。
奪われてなるものか、この国の戦力にしておくのは惜しい。この国のために力を使わせるには余りにも勿体ない。
ーーーーどうせならこの手で、追い詰めて、追い込まれて、死の瀬戸際で"心臓"の力を感じてみたい。
「……アレは、心臓の器ではない」
「真ですか、それは」
「そうだと言っている」
もう何も話すものか、アレは俺の獲物だ。
余計な手を出すものは何人たりとも許しはしない。
「(…その機会がある日まで、精々利用されてくれるなよ)」
まあ、何かの目的で動いている弟が傍にいれば、きっと易々と殺されはしないであろうが。
…アレもまた、俺の獲物であるのだから、その対象が二人行動してくれている分には何も問題はない。
「カルラ様!どこに行かれるのです!カルラ様!」
(可哀想なことに、苦労しているのは彼らの周りの人間達だけである)
ーーーーー全くもって、統治者の息子達は国の行く末に無関心であった。