心臓



アオは突然この国にやってきた流れ者。
たまたま国に見初められ、たまたま戦闘要員になっただけ。その責務を全うする義務を一ミリたりとも感じていない。

国もそれを許しているのだ、その才が故に。


「世界が二つに割れてから、国はなーんも進歩しちゃいないね」

「アオ、不謹慎だぞ」

「……どうせアレが欲しいだけなんでしょ」

「アオ」

「私はいいよ、この店が在ればそれで。でも世界はそうじゃないんだもんなあ」


強さを求めるのは普通だ。
対立する国に勝ちたいという気持ち、それは人間の本能。
だが、此処に来るまで沢山の街を歩いてきた今思うのだ。人がいなければ、どうしたって国は成り立たないのだと。それを蔑ろにした国には勝利も発展もクソもない。


酒を流し込んだアオはジョッキをカウンターに置いて、自らの財布を覗き込む。相変わらず、溜息が出るほど中身はしけている。


「私は為すべき事があるから、どちらも応援しないよ。どちらも利用する。どちらも敵になるかもしれないのだから」

もしかしたら、此処にいる皆も自分の敵になるかもしれない。できればそうならないで欲しい、そうならないと信じたい気持ちもある。

アオはきつく胸元の服を握りしめた。
嗚呼もう、"コレ"さえなければ、みんなと一緒に生きられたのに。




「、もう今日は帰るね。ボエロ」


脱ぎ捨てたブーツの紐を結びながら帰り支度を始める。もう夜も遅い、明日からまた"探し物"の続きだ。


「相変わらずどこに泊まってるか知らねえが、気をつけて帰れよ」

「ありがとう。また来るよ、今度はボエロのツケで」

「店主にツケる客がどこにいんだよ馬鹿!」


願わくば、この暖かい空間が続いて欲しいと強く思う。
アオは酒屋の重い扉を静かに閉めた。
そこから一歩出ると其処はもう、黒の世界。


(誰を信じていいか、わからない世界)



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