心臓




さて、今日はどこに泊まろうか。

ボエロの酒屋を出たものの、流れ者のアオには特定の家がない。いつも国から支給されるお金は酒代に費やしているため、宿代は全て身体を張って見つけている。

身体を張るというのも変な意味ではなく、人助けをしたり、依頼を受けた褒美であったり筋の通ったものである。


「そろそろ拠点地も決めないとなー」

オリガスの最東端からこの国の中心都市にきて5年。最初は国の警備に無理矢理トップの元に連れていかれ、剣の腕を見初められてあれよこれよという内に戦闘要員になることが決まった。一気にいろんな事があったが、色んな意味で動きやすくなったことは確かである。この暑苦しい制服もその時の都合によっては使えるし、まずは民が必要以上に危害を加えてくる事が少ない。

僅かに舗装された森の道を歩く度に、ヒンヤリとした空気が肌を刺した。オリガスはこの寒暖差が夜に特に顕著だ、今は冬の初め、少しだけ吐いた息も白かった。
(だめだ、早く宿を見つけよう。凍え死ぬ…)


肌をさすった時、前方から人影がゆらりと現れた。ただの人かもしれないが、一応警戒しておくに越した事はないだろう。アオは腰に下げた刀の柄に手を置き、影の顔が露わになるのをジッと待つ。

(………男?)




「っ、見つけた!」


影がなくなった瞬間見えた、力強い男の双眼に思わず息を飲んだ。




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