心臓
そこからは異常に速かった。
少しあどけなさを残してはいるが、あまりにも整った顔に呆気にとられたと同時に相手が抜刀してきたのだ。
(っ初対面でなんていう無礼さ!)
ギリギリこちらも刀を滑らせ、なんとか相手の一撃を受け止めたが一歩遅れていたら制服に傷が付いていた。修復費用の方がアオにとって大問題なのである。
「----っちょぉおっと、失礼なんじゃないかなあっ」
「悪いけど、"確認"したいんだよっ、な…!」
「っ!」
ガキン、と大きな音を立てて刀を振り払われた。
手元の震えが止まらない。
この男相当力が強い。それからも遠慮なく繰り出してくる一撃一撃をアオは少し息を切らしながら弾いていく。
持久力がない私が男の体力に合わせるのは厳しいこと、ならば、と足にグッと力を入れ、男の懐に一気に飛び込んだ。
「、って!」
「当た…!……、らないか」
惜しくもカスる程度ではあったが、今の一撃で十分に距離をとることに成功した。
…速さ、洞察力、力の強さ、どれも申し分ない程の実力。何なんだこの男は。
(軍のものじゃ、ないよね。制服着てないし)
基本的に、この国で軍人・軍属は制服が義務付けられている。私は例外だが。観察するように上から下まで見通すと、中々上物を身に付けているようにも思えた。
「……君は、貴族か何か?」
「貴族、ね。そんな甘っちょろいのと一緒にされるのは心外だって」
鼻で笑った男は、いや、青年、と呼ぶ位の歳だろうか。貴族ではない、ということはただの民間人…それもないか、こんな剣使いがいたら困る。
刀の柄を摩りながら、アオは警戒を解けずにいた。ここまでのやり手は久々ではあったし、何せこの青年の余裕そうな笑み。
なかなか癪に触る。