心臓
「突然の攻撃は謝るよ。悪かった」
「……」
急に青年は笑みを消して、刀を鞘に戻した。
その流れが余りにも自然で、自分が戦いを重ねてきているからか、相当戦い慣れしている事に気づく。
闇に飲まれそうなほどの黒髪を持ち、にも関わらず眩しいくらいの力強さを持つ金色の目。
吸い込まれる、錯覚がアオを襲う。
「アンタを探していた」
嫌な予感がする。
無意識下でそれを察して、冷や汗が背中を流れた。一歩ずつ、こちらに歩み寄ってくる青年に心臓が高鳴るのを感じる。
嗚呼もしかして。
……いや予想の範囲内だ。"彼らのような人"はこの世界に、必ずいるのだから。
「俺はギル。アンタの噂は聞いてる。
軍直属の戦闘要員で、ある日突然この街に現れた流れ者…だっけ」
「、だったらなにかな」
「黒髪で黒目、頭がキレるだけじゃなくて、誰もが羨む強運の持ち主。腰には一刀、銃が一丁、後は首から下がる銀の指輪……ビンゴ?」
青年の口から飛び出したのは今のアオを成り立たせる全ての要素だった。知られすぎて顔の引きつりが隠せない…ドン引くレベルである。
「きっもち悪いなあ。なに、君は私のストーカーなの?」
「ストーカーはやめろ…これが今俺が知るアンタの情報だ」
「いや知りすぎでしょ。ボエロ達ですら知らないこともあるって、そーとー私に興味があるのかな?ギルくん」
少しふざけたように首を傾げるアオに、ギルはムッとしたような怪訝な顔をする。心底心外である、とでも言うように。
「っ俺が興味あるのはアンタじゃなくて、」
「"心臓"、でしょ?」
「……!」
青年に向けるアオの眼差しは一気に冷めたモノに変わる。その変化にギルがたじろぐのも無理は無かった、あまりにもその切り返し方に慣れを感じるのだ。
この、賤しいだけの心臓に興味があるのですね、君も。