君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
今だって、そうだ。
「俺、実は好きな子がいるんだ」
そう言って笑った亮太は、今まで見てきたどの亮太よりもカッコよくて、きらきら輝いていた。
――不覚にもときめいてしまうくらいに。
目に痛いくらいのまぶしさを放つそれに、理解が遅れた。
……今、リョータ何て言った?
好きな子が、いる?
その時あたしは、本当に、一瞬、時が止まったような気がした。
すぐ下を通り過ぎていった市電の音で我に返る。
心臓がどくんと大きく脈打つ。
亮太の髪が、制服が、風に揺れていた。
「だから、緒川にいろいろと協力して欲しくって」
ポリポリと、右頬を人差し指で掻きながら、すまなさそうにこちらの顔を窺う亮太。
亮太の癖だ。あたしは知ってる。
人に、頼み事をするときの癖。
……友達だと、思ってた。
異性間でも友情は成り立つって、――それがあたし達なんだって。
でも、違った。
無性に悔しかった。
こんなにもヤツについて分かってしまう自分が、友達以上に亮太を――亮太を、ずっと見ていたのだと、こんなにも好きだったのだと、改めて気付かされて。
あたしの気持ちは、とっくの昔に恋だったのだ。
けれど、あたしの気持ちは決して報われない。
それなら知りたくなんて、なかった。
「だめかな?」
恐る恐る、といった体の声音に、ぽんと出そうになった言葉は一体何だっただろうか。
でも、それはすぐに唾と一緒に飲み込まれて体内に落ちていく。