君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
――実を言うと、そこから学校に着いて家に帰るまでの記憶は断片的でしかない。
心臓の音がずっとしていたとか、亮太が笑っていたとか、
……あとは鮮やかすぎる青空が目にしみて滲んでいたとか。
気付いたらあたしは自分の部屋にいて、制服のままベッドの上に仰向けに寝転がっていた。
少し黄ばんだ白い天井を見ていると、亮太の顔がぽんぽん浮かんでくる。
斜め前の席で真剣な顔つきで数学の問題を解いている顔。
方向が一緒だからって帰るときにさり気なく車道側を歩いてくれていたときの顔。
いつも憎たらしいことしか言わないくせに、あたしが落ち込んでたら必ず「どうした?」って首をかしげながら話を聞いてくれた顔。
テストの結果が散々だったときに「俺の親にはナイショな」って苦笑いしてた顔。
――あたしがバレンタインに(その時は義理だったけど)あげたフォンダンショコラを食べてくれた時の、顔。
そして朝に見た、笑顔。
あたしはちゃんと切り返せていただろうか。
勘のいい亮太が何も言ってこなかったってことは、恐らく、うまくできたということだけど。
ツンと鼻の奥が痛む。うっすら滲んだ視界を見ないように、あたしは静かに目を閉じた。