君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「照れんな照れんな!」
「ゾッコンじゃねぇか亮太! ヒューヒュー!」
「寝ても覚めても想うはただ一人ってか!?」
「だーもー! お前ら騒いでっけど、プリントしっかりやったんだろうな!」
「いーのいーの、俺らのことは!」
「でも、俺らから見ても結構イイ感じだと思うぜ? なぁ?」
心臓がどくん、どくんと大きく脈打つ。
手のひらが嫌な汗をかいていた。
知らず知らずのうちに力んでいたせいか、シャーペンの芯がプリントの上でぼきりと折れる。
うるさいくらいの喧騒がだんだんと遠のき、あたしの耳は今喋っているクラスメイトの声しか捉えなくなる。
いつの間にか、自然と彼の口唇を見つめていた。
「お前と――――」
「――ねぇ、ちょっと! 話聞いてんの? おゆ」
瞬間、ぽんと肩に手を置かれてあたしはハッと見上げた。
その先にいたのは、訝しげな表情であたしを見ている美織と、心配そうな奈々実だった。
「……大丈夫? 息上がってるけど」
奈々実にそう言われ、あたしは初めてろくに息をしていなかったことに気付いた。
まるで全力疾走したあとのような激しい鼓動。 肌から一気に汗が吹き出す。
あたしは二人を交互に見ながら、後ろ頭をかいた。
「ご、ごめんごめん。 ちょっと集中してて」
「ふーん」