君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
亮太たちのグループを横目で見てから、美織がぱっと表情を変えて言った。
「奈々実と話してたんだけどさ、昨日のドラマ!もう超最ッ高だったの!」
……その後もどうやら二人は(というより美織のハイテンションに奈々実が付き合っているような感じがあったけど)ドラマの話題で盛り上がっていたようだが、あたしの耳にはこれっぽっちも入ってこなかった。
自然と視線は斜め前の方へ動く。
自分の席に座って改めて思う……。ここから見える亮太の後ろ姿を、あたしは毎日楽しみに見ていたんだ、と。
「(空が青い)」
あたしが見ているこの青は、きっと他の人には違う風に見えているに違いない。
男の子たちの話題はもう別のものに切り替わっているらしく、あのスポーツ選手がいいだの成績がどうのという断片的な単語が聞こえてくるのみだった。
さっき聞こえた男子生徒の言葉が鮮明によみがえる。
『でも、俺らから見ても結構イイ感じだと思うぜ? お前と――――』
このあと続いたはずの言葉はきっと、名前だ。亮太の好きな人の、名前。
あたしはそれを本能的に遮断した。