君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「緒川ー!」
「……!」
今はなるべく亮太と喋りたくない。利用している駅も同じ、帰り道もほぼ同じ。だから早めに学校を出たのだけど。
校門をでたあたりで、突然後ろから声をかけられた。
「一緒にかえろーぜ」
振り向かなくたってわかってしまう、その声が誰なのかなんて。だって、ほぼ毎日一緒にいるんだもん。
ぽん、と置かれた手の温もりが肩越しに伝わってくる。
少し前までなら、この気だるい帰り道も彼と一緒なら楽しい時間に変わったのに。
今は嬉しいような、悲しいような。どうとも説明のつかない感情があたしを支配する。
それでもあたしは胸がぐるぐると疼くのを感じながらも、ぎゅっと親指を握り込んで、精いっぱいの笑みを作って振り返った。
「もう、しょうがないな〜」
自然に、いつも通りに。
大丈夫、きっと大丈夫。
ちゃんと笑えているはずだから。