君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
◇◇
とぼとぼと1人歩く遠回りの帰路。
人通りも少なくて、暗い。
いつも通ってるから怖いとも感じないけど。
亮太から逃げてここにくるまで、ずっと考え事をしてた。
いや……。思えば、今日一日ずっと考え事をしていた気がする。
朝起きて、歩道橋を渡って。
授業を受けて、帰宅して。
変わらない日常なのに……少し違う。
――諦めたくない。
本当は、あきらめたくない。
もしかしたら、これから好きになってもらえる可能性も……捨ててない。
でも――。
「あっ、」
ぴたり、足を止める。
足先を見つめてぼーっと歩いていたせいで、向かってきた人に危うくぶつかるところだった。
「す、すみません……っ」
慌てて謝り顔をあげると、目の前にいたのは長身の男。目が、合った。
にィ、と口角をあげる彼。
「緒川由奈さん、ですね?」
――――この地球上には七十億の人間がいるという。
その中で、一体、どれくらいの割合のひとが
「はじめまして、私は死神です」
と挨拶してきた男の言葉を信じるのだろう。