君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「緒川由奈さん。残念ながらあなたの余命はそんなに長くなくてですね。心残りなく死んでいただく、そのためのお手伝いをしに参りました」
男は、胡散臭い笑顔を浮かべながらあたしに名刺を手渡した。真っ白な長方形のそれには黒い字でこう書かれてある。
死神No.444
担当業務・葬送準備、その他事務
「しに、がみ……?」
あたしは訝しげに眉をひそめながら、名刺と、目の前に立っている男を交互に見た。
中肉中背。
喪服のような黒いスーツ。
漫画やゲームで描かれているような、骸骨だったり、足まで覆うフード付きの黒いマントを着ているわけでもなければ、背丈よりも大きな鎌も見当たらない。
出会い頭に変なことを言われなければ、この辺りが住宅街であることから、セールスマンにも思っただろう。
これが家のインターン越しであれば無視を決め込むところだけど、足を止めてしまった上、ご丁寧に名刺までもらってしまった。
あたしの家はこの道の先だし、かと言って、今さらUターンしたあとにまた遠回りして帰路につくのも面倒だ。
家まで残り数百メートルというところで頭のネジがイカれたこの変な男に遭遇するわ、亮太とは気まずい雰囲気になるわ……本当にツイてない。