君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける







昨今の亡者は現世に未練を残し過ぎなんですよね、と死神おとこは言った。





「そういうものを持っているとね、成仏できないんですよ。あ、成仏できないって意味わかります……んー、あの世にいけないとかじゃあなくてですね、端的に言ってしまえば輪廻の輪に戻れないってことなんですよ。それに関してはご自身で検索するなり、本でも読んで調べてみてください」



「……そこはめんどくさがらないで説明してよ」



「そんなこと言われても困るなぁ。なんせ、いろいろと仕組みが複雑でしてね。細かいこと言うと宗教戦争が勃発しちゃいそうですから」



「はぁ……」



「大事なのは、未練があると成仏できないってことと、成仏できない亡者――まぁ、タマシイってやつですね――は現世に留まってしまうってこと。

分かりやすく言えばユーレイになっちゃうってことです」



「……」



「こうなると上的にかなり面倒というか、厄介なんですよねー。

一応ね、私たちもお役所仕事なんで。書かなきゃいけない書類の量はバカにならないし、サービス残業だって当り前。てんてこ舞い。もう猫の手も借りたいくらいの大忙し状態になっちゃうわけでして。

それを防ぐために、つまり、心置きなく死んでもらうために、全力でサポートさせていただくのが私の使命なのです」




ご理解していただけましたか?






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