君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
無礼で、一言多くて、ろくでもない男。あたしはヤツのことを、いつもそんな風に思っていた。
「えー、これから数学の補習を始める……と、言ってもなぁ。緒川、またお前だけか」
「ゔっ……」
数学教師の残念な視線を向けられたのは、あたしだけ。
数日前にテストも終わり、放課子のいま。他の子がカラオケやらファミレスやらで遊びに行ってる間、あたしは補習である。
他のクラスにも補習の子はいるけれど、うちのクラスではあたしだけ。
数学の赤点は35点。34点で落とされたあたしって一体……。
あと1点さえ取れればあたしだって今ごろ奈々実や美織と一緒に買い物に行けたのになあ。
「ほら、問題用紙だ。制限時間は45分、その前に全問解き終わったら帰っていいぞ」
「えっ、本当ですか! ラッキー」
「ああ。でも採点で85点取れなかったらまた補習な」
「は、ちじゅう……!? そんな無謀な!」
「なーに言ってんだよ、それをよく見てみろ。テストの時の問題と全部同じだろ? 楽勝だって」
先生はそう笑って、教室を出て行った。
果たして、あたしは一体何周すれば補習ループを抜け出すのとができるのだろうか……。
「(んー、この問題見たことある。テストでも間違ったところだ……)」
テスト返却の時にやり直したの覚えてる。でもやっぱり思い出せない。
なかば諦めモードの中、あたしは頬杖をついて窓からグラウンドを見下ろす。
とっても天気がいい。今日は絶好の部活日和だね。
部活には所属してないけど体を動かすのは好きなんだ、あたし。
でも、あたしの足は運動をするにはもう使い物にならないからなあ。
日常生活には支障もなく、特に困ることなんてないから不自由なくていいけどね。
たくさんのスポーツマンが太陽の下で一生懸命部活動に励んでいる。