君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「これ、わかんないなーって」
「あ、その問題か。これはね、公式の使い方にちょっとコツがあるんだけど……」
そう言いながら、まるで模範解答でも見ているようにすらすら計算していく。
小学校の時に習字を習っていたらしい由奈の字は、たとえ数字や記号でも、大人っぽくてキレイだ。
あたしの丸っこい字が恥ずかしくなるくらい。
唯はあたしの字が可愛くて羨ましいと言うけど、可愛い字が役に立つのなんて、プリクラか、何かをデコる時かくらいなもの。
これから大人になるのに、丸っこい字なんて役に立つわけない。
次の問題も同じように解くからね、と言われたので解法を参考にしながらやってみる。
すると、何から手を付けていいか分からなかった問題が、まるで足し算や引き算のレベルに思えてくるから不思議だ。
「唯って、ホント人に教えるのうまいよねー。さっすが将来のセンセー」
「そ、そんなことないよ……。由奈ちゃんの飲み込みが早いから……」
ぶんぶんと顔を振りつつ、言葉尻になるにつれて身体も声も縮こまらせる唯。
この友人は、どうやら面と向かっての褒めには慣れていないらしい。