君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける







「……」





なのに。




そう、決めたのに。




目を閉じれば嫌というほど亮太が思い浮かんで。




今日は眠れそうにないなって思って。








気を紛らわせようとイヤホンを片耳に突っ込んだ時だ。





「随分と悩んでいらっしゃるようで」


「、」





後ろから突然声をかけられた。




挿しかけのイヤホンをポケットにしまって振り返ると、そこにいたのは昨日『死神』と名乗った男。





「このままでは地縛霊になりそうで怖いです」





クスッと笑う男に、あたしはムッと口唇を尖らせた。




強気に腕を組んで、男の顔を睨みつける。




きっとこいつはあたしが何に悩んで苦しんでいるのか、知ってる。






< 37 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop