君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「……」
なのに。
そう、決めたのに。
目を閉じれば嫌というほど亮太が思い浮かんで。
今日は眠れそうにないなって思って。
気を紛らわせようとイヤホンを片耳に突っ込んだ時だ。
「随分と悩んでいらっしゃるようで」
「、」
後ろから突然声をかけられた。
挿しかけのイヤホンをポケットにしまって振り返ると、そこにいたのは昨日『死神』と名乗った男。
「このままでは地縛霊になりそうで怖いです」
クスッと笑う男に、あたしはムッと口唇を尖らせた。
強気に腕を組んで、男の顔を睨みつける。
きっとこいつはあたしが何に悩んで苦しんでいるのか、知ってる。