君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「うっさいな。てか死神、あんたあたしが未練残さないようにサポートしてくれるんでしょ。手伝ってよ」
「そこは由奈さん自身に頑張っていただかないと、私には何とも。サポート外のことですので」
「ケチっ」
「ケチで結構コケコッコです」
……なんだこの得体の知れない胡散臭い奴は。
「まあ、私からは頑張ってくださいとしか言いようがありませんので」
「……」
「せいぜい自分の時間を大切に、そして私のために未練なくお過ごしください」
「な……っ!」
「陰ながらですが応援してますよ」
「ちょっと待……」
黒いスーツの袖を掴もうと伸ばしたあたしの手が、するりと宙を切る。
「消えた……」
あいつめ、本当なんなのよ。言い逃げとかそんなのあり?
自分の時間を大切に、とか。
未練なくお過ごしください、とか。
……そんなの無理。
だってだって。
自分がどうしたいのか、本当は定まってないの。
ああ、もう、何もかも。
「うまくいかない……」