君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
これから、本格的な夏がやってくる。
お祭りとか、花火とか、水着新調して海にも行きたい。その前にまず補習をやっつけないとならないんだけど。
でもでも、それよりももっと。華のセブンティーンである乙女にとって、この夏は特に夢があって――。
「あーあ、彼氏ほしいっ」
切なる願いと一緒に、もの鬱げなため息が漏れる。
と、その時だった。
「整形して、脂肪吸引しないと無理だなっ!」
「黙れ」
こいつはお呼びでない。
あたしは失礼な言葉が放たれた方へ頭を上げる。
そこには短髪の男がニヤニヤとこちらを見下していた。
「本当のことじゃねーか。何をそんなに怒ってるんだよ」
何か含んだように笑いながら言う男子生徒は中学3年生からの付き合い。
片手で潰したペットボトルをゴミ箱に投げ入れる。
外れたら「ダッサー」って笑ってやるつもりだったのに、それは、綺麗な放物線を描いてゴミ箱の中に入っていった。
「あのね、乙女にそんなこと言っちゃダメなんだよ。ガラスのハートなんだよ、乙女は」
「ほうほう。じゃあ緒川は乙女じゃない、と」
「……」
あたしの筆箱からマーカーを勝手に取り出し、手の甲にメモをする亮太をギロリと睨んだ。
くっそ。洒落たピアスなんてつけちゃってさ。
「知ってる?リョータ。女の子には優しくしないといけないんだよ? 幼稚園で教わらなかった?」
「女の子……?」
眉間にしわを寄せて真面目に神妙な顔をしてあたしを見るリョータ。
ほんと、こいつあり得ない。