君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「寝る子は育つって言うけどよ、オメーは全然どっこも育たねェから意味ねェよな」
「うるさい!」
妙にドキマギする心臓を隠すように拳を突き出すものの、「当たるかよ」とからかわれただけだ。
コイツ……、とあたしは内心呟く。
あたしの中にある、名前だけは可愛らしいコイゴコロとかいうものは、今だけは、ヤツに一発食らわせないと気が済まないといった苛立ちに取って代わっていた。
亮太のことが好きだと気付き、同時に失恋したあの日から――3週間が経とうとしている。
最初こそ不自然なほど硬くなって亮太を不審がらせてしまうこともあったけれど、慣れてしまえばそれなりに今まで通りに話せるようになった。
ぐぬぬ、スネに蹴りでも入れてやろうか……そう思ったところで、はたと気付く。
「あれ、みんなは」
授業前だというのに、教室にはあたし達を除いて誰もいない。