君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
理科室に着くや否や、亮太は無言でさっさと自分の席に着いてしまった。
あたしもあたしで早足で席に向かうと、ちょうど向かいに座っていた美織がどこぞのオヤジくさい笑みを浮かべている。
「おやおやァ? 随分と遅いご到着ですなァ由奈殿」
「なにがユナドノよ!」
あたしは口を尖らせた。
「もう、ちゃんと起こしてって言ったじゃない!」
多少荒くなった口調でそう責めるが、対する美織は指に髪を巻きつけながら素知らぬ顔だ。
「だって私も奈々実も係だしさァ、早めに行かなきゃいけないわけだし? そしたら亮太が日直の仕事終わらしてから行くって言うじゃん? だから頼んだだけなんだけど」
こちらをちらりと見る目に浮かぶ、お膳立てした感。
美織や奈々実に明言はしていないものの、あたしのキモチは感じ取られているんだろう。
機会があれば何かと画策する友人の行為は嬉しいやら気恥ずかしいやらで。
少し辛くもある。
明らかに意図的に間延びさせた声に、あたしは
「もう」
とだけ言って目を逸らす。