君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
全身の毛穴から汗がふきでるような気がした。
顔を上げられなくて、あたしは、クリーニングに出したばっかりの制服のプリーツを数える。
そうやってそわそわして、逃避しかけた時だった。
「おゆってほんッとバカだよ、バカ! この大馬鹿者!」
突然炸裂した美織の雷に奈々実の「ひィッ!」と裏返った声が響いて、びくんと背中が跳ねた。
「敵に塩送ってどーすんの!? おゆは恋のキューピッドにでもなりたいわけ!?」
そう言ってバンと激しく机を叩くと、売店で買ってきたらしい焼きそばパンの袋を乱暴に引きちぎり、無言でパクつき始めた。
綺麗にカールされた黒髪がぷりぷりと動いている。
そのまま勢いよく2口目、3口目とかぶりついた美織をみながら、奈々実が苦笑いをする。
「まぁまぁ、そんなカッカしないの。落ち着きなよ〜」
栄養面が考慮されていることが素人目からでもわかる色鮮やかなお弁当の中から唐揚げを綺麗な箸で掴み、パクリ。
咀嚼し終えてから、あたしをちらりと見て続けた。
「しょーがないじゃん、おゆはそういう子なんだから」
「そこはまぁ、友達としてわかってるけども」