君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「ごめん、言えない……。亮太があたしを信用して打ち明けてくれたんだもん。口外、できない」
半分ホントで、半分ウソ。
あの時のことを思い出すとあたしの心は無条件に跳ね上がって、心臓はでたらめに脈打ち、彼の姿を鮮明に脳裏に思い描いてしまう。
生まれつきだという天パを気にして、中学3年生の夏から短めになった黒髪。
適度に日焼けした肌。
二重まぶたのラインが、左右で微妙にちがう瞳。
筋肉がほどよくついた体付きは、いかにもスポーツ少年らしい見た目だ。
周りより一足先に声変わりしたんだ、と。意味のわからない自慢話をしていたそれは、少し低くて、どきどきする。
どんな雑踏や喧騒の中でも絶対に聞き分けられる自信があたしにはあった。
なぜって、鼓膜と心臓をストレートに震わせるから。
「腹減ったー。つーかいい加減メシ食おうぜ、メシ」
……ほら、ね。