君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
あたしは弾かれたように勢いよく顔を上げて、その方向を見る。
教室のドアから顔を覗かせているのは知らない女のコたちだった。
声が大きくて、ちょっと派手めなハンドボール部の子たち。
彼女たちが亮太に向かって親しげに手を振った後に呼び寄せるような動作を見せると、亮太と男子たちは席を立って彼女たちの方に近付いて行く。
何やら雑誌を手に話をしているみたいだ。
その距離は数十センチしかない。
あたしはぐっと奥歯を噛み締め、無理矢理視線を引き剥がす。
亮太から『告白』されるまでは平気だった。亮太が誰と話そうと笑い合おうと、全然、全く、気にしたことなんてなかった。
でもそれは、あたしが、勝手な確信を持っていたからだ。
――亮太にとってあたしが一番であるという、妄想的確信。
さっきとは全然違う、冷えた心臓が早鐘を打っている。
お弁当の締めにと取っておいた大好きな卵焼きを口に入れ、生温くなったお茶と一緒に身体の奥底へと流し落といた。
大好きな砂糖入りの甘い卵焼きは、何故か美味しくなかった。