君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
頬杖をついた美織が「ほれ見ろ」と言いたげな顔をしている。あたしは何気なく視線を逸らした。
「亮太ってさ、何気にモテるんだから。気ィ抜いてっとどっかの誰かにホイホイ盗られるよ?」
どっかの誰か――何気なく言われたその一言で、唯を思い出し、それがぐさりとあたしの心の柔らかい部分に突き刺さる。
さっさと告白すればいいのに、呆れたように続けた美織に奈々実は淡く笑った。
「ま、なんていうかさ。おゆはそういう子じゃないんだって。 やきもきする美織の気持ちも分かるけどね」
「それはわかってるけどさ、だけどさぁ……」
焦れったそうに言う美織。
奈々実が水筒からひとくち、ふたくち、お茶を飲んでから続ける。
「居心地がいい関係ってやっぱり崩したくないものだしね、そう思うとね、……ってやつだと思うよ。亮太と同中なのっておゆしかいないわけだし」
そう言われて、いつの間にか、あたしはまた亮太を見つめてしまっていたことに気付く。