君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける







 

頬杖をついた美織が「ほれ見ろ」と言いたげな顔をしている。あたしは何気なく視線を逸らした。





「亮太ってさ、何気にモテるんだから。気ィ抜いてっとどっかの誰かにホイホイ盗られるよ?」





どっかの誰か――何気なく言われたその一言で、唯を思い出し、それがぐさりとあたしの心の柔らかい部分に突き刺さる。
 



さっさと告白すればいいのに、呆れたように続けた美織に奈々実は淡く笑った。





「ま、なんていうかさ。おゆはそういう子じゃないんだって。 やきもきする美織の気持ちも分かるけどね」


「それはわかってるけどさ、だけどさぁ……」
 




焦れったそうに言う美織。
 



奈々実が水筒からひとくち、ふたくち、お茶を飲んでから続ける。





「居心地がいい関係ってやっぱり崩したくないものだしね、そう思うとね、……ってやつだと思うよ。亮太と同中なのっておゆしかいないわけだし」





そう言われて、いつの間にか、あたしはまた亮太を見つめてしまっていたことに気付く。






< 52 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop