君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
2人と話している間にあの子たちは帰ってしまっていたようで、亮太と男子たちは笑いながら先ほどの昼食の輪の中にいた。
クラスメイトたちの間から見える横顔にどうしようもなく胸がドキドキして、高揚する。
さっきまでの嫌な感覚は既に嘘みたいに消えていて、あるのは彼への気持ちだけ。
思い返してみれば、クラス替えをしたあの時から亮太はどの記憶の中にもあたしの隣に存在して。
憎たらしいこと言って、笑って、話して、それが「当たり前」で、ずっと続くものだとつい最近まで信じて疑わなかった。
けれど今ならハッキリと分かる。
それは単なるあたしの願望に過ぎず、遅かれ早かれ彼は意中の人を連れてあたしの目の前から静かに消えていくのだろう。
――3週間前の光景が頭をよぎる。
あの日からずっと、死ぬまで隠し通そうと決めたこのちっぽけな恋心が震えた。
寂しさとか切なさとか、あたしの貧相な語彙力じゃ言い表せられない喪失感がきゅっと締め付けてくる。
でも、じゃあ。
もしも彼からの告白がなければ、あたしはこの想いを伝えていただろうか?
あたしは大きく頷く自信がない。