君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
居心地がいい関係は崩したくないもの、という奈々実の言葉が一番的確だと思う。
いつの間にか一文字に結んでいた口唇をゆっくりと解くと、微かに鉄の味がした。
奈々実が微妙に開いた間を繋ぐように言う。
「ほら、いろいろ考えちゃうんだよ。 告白しちゃったら、もう告白する前の関係には戻れないんだし。 もしも……」
言葉尻を濁しながらあたしをチラリと見る。
「お互いギクシャクしちゃってそのままサヨウナラってこともザラだろうし」
「それはそれで分からなくもないけどさーぁ。 他の女とくっついてイチャラブしてんの見せつけられるのも嫌でしょ?」
突っ込むように美織が言い、「ね」と意見を求めてきた。
話を振られて我に返ったあたしは、後ろ頭を掻きつつ。
「あ、いや……あたしは別に、亮太が誰とどーなろーと知ったことじゃないって言うか……嫌だけど……でも……」
「んもー! ハッキリしなさいよねこのおバカ!」
「むぎゃ!」
ぺちん、と美織によって冗談交じりに軽く叩かれた頬が、やけに痛い。