君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
昔からはっきりと主張できなかった性分は、物事を何となくで済ませられるスキルへと変わっていた。
そうして沈めていったあたしの本音は、時の経過と共に風化し、気付けば無くなってしまっていて。
今までもそうだったなら――きっと今回も、と心の中で呟く。
あたしは亮太が好きだ。
けど、突き詰め出すとその「好き」は霞みのようにひどく曖昧で、ぼんやりしたものになる。
あたしのことを一番よく知ってくれているのが彼で、だからこそ隣にいるのも、話すのも気が楽で。 それに優しくて――
……だから、「好き」?
口から言葉にして出せばきっと確固たるものになるんだろうけど、 自分自身でもはっきり断言できないそれを出すくらいだったら。
そしてそのせいで今の関係が気まずくなるくらいなら。
飲み込んだほうがたぶん、ずっとマシだ。
よくある少女漫画みたいに、疎遠になったわけでも、物凄く遠い存在になったわけでもない。
それなりに話もするし、時間が合えば一緒に帰ったりもする、そんな関係が。
欲張ってしまうのは良くない。チラリと亮太を見る。