君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける








それに彼には「好きな人」がいるんだし。
 



下手にぎこちなくなるよりも、ぬるま湯に浸ってくつろげるように、現状維持のまま、笑い合える関係の方がずっといい。
 




きっとそうだ。


 


この胸の奥で息づくコレもまた、数年も経てば穏やかに風化していくに違いない。




今まで沈めてきた感情たちと同じように。




そう思った時だった。








「けどさ、――きっといつか後悔するよ」

 



昼休みの喧騒に飲み込まれそうなほど小さな声で、呟くように言った奈々実の真っ直ぐな顔にハッとする。
 



あたしではない――きっとあたし越しに誰かを見つめるその顔つきはやけに大人びていて。




反射的に口を開いて数秒、出かかった気持ちは言葉にならずに吐息になった。




言いたいことは何となく分かった。 そしてそれは、きっと正しい。
 



けれどきちんと言葉に出すことはやっぱりできなくて、あたしは結局、お茶と一緒に胃の中へ流し込んだ。








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