君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
と、さっきからスマホをいじっていた奈々実が、目をキラキラ輝かせながら話題に食いついてくる。
「そーいや、ふたりって中学も一緒なんだよね?」
「え、あ、まぁ……うん」
「それってさ、つまりあれじゃない? 少女漫画でお馴染みのさ! ずっとムカつく相手だと思ってた奴に突然コクられちゃうやつ! よくあるじゃん、そういうの!」
「亮太から告白ぅ?『ずっとお前のことが好きだった! 付き合ってくれ!』とか?」
「その展開チョーいいじゃん! ドキドキする!」
はしゃぐ奈々実に美織も頷き、指を折っていく。
「まぁ、彼、顔もそんなに悪くないし、バカじゃないし……、運動神経もそこそこいいし……」
「あれっ、そう考えてみたら亮太ってばめっちゃ良物件じゃん!」
お弁当そっちのけで妙に盛り上がるふたりの会話に呆れつつも、不思議と悪い気持ちがしていない自分がいることに気付く。
面映ゆいというか、胸の中がくすぐったいような。ふわふわとした気持ちはまるで宙に浮いた風船みたいだ。
そう言えば、顔を合わせたら互いに憎まれ口しか叩かないのに、結構一緒にいるなとか。
何だかんだいつも亮太の方から話しかけてくるとか。
実際、数多くいる亮太の女友達の仲ではあたしが一番ヤツと仲が良い。そこは、自信持って言えるし。
亮太があたしに対して淡い気持ちを抱いているなんてありえないなんて内心笑い飛ばしながらも、そうやって一つひとつ些細なことから思い返していくと、もしやという思いがむくむく膨れ上がっているのが分かる。
と、美織が下心が見え見えのオッサンみたいな顔つきで言った。
「あれ?あれあれ?緒川サン、実は彼のことが実は気になり始めてきたりなんかしちゃったりィ?」
「ま、まっさか〜。そんなわけないじゃん。ってか、早く食べないともう昼休み終わるじゃん!」
時計を指差したあたしの言葉に、美織と奈々実も焦る。
おにぎりを喉に詰まらせた美織にしっかり者の唯がお茶を飲ませて、それを見てあたしと奈々実が大笑いする。
この4人と一緒に過ごす時間が楽しくて仕方がない。
亮太とふざけ合ったり、バカやれるような関係も、まあ、楽しいし?
こんな時間がずーっと続けばいいのにな。
なんて、改めてそんなことを思った。