君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「なんだよ、ご機嫌ななめか〜? ……あー! わかった。わかっちゃったぞ、アレだな?」
そうしたことによってヤツはウザさを増して。いっそう人の目を集める結果になってしまった。
「もう、うるさいな!」
あたしはたまらず悪態をつき、足をはやめた。
とにかく、この歩道橋を渡りきれば学校はすぐそこにある。
もう少しの辛抱で亮太とのウザったい時間は終わるはずだ。
学校でちょっかい出されるのはまだ可愛い方だ。
だけど、これは堪えられない。
どうしてあたしが、朝からこんなはずかしめを受けなければいけないんだ……!
そう、思った時のことである。
「あのさ……ちょっと話があるんだ」
歩道橋の上。あとは階段を下りるだけになった地点で、唐突に亮太は足を止めた。
「え……?」
ドキッとしたのはとっさに昨日の会話を思い出したからだ。
――「それってさ、つまりあれじゃない? 少女漫画でお馴染みのさ! ずっとムカつく相手だと思ってた奴に突然コクられちゃうやつ! よくあるじゃん、そういうの!」
――「亮太から告白ぅ?『ずっとお前のことが好きだった! 付き合ってくれ!』とか?」
――「その展開チョーいいじゃん! ドキドキする!」
「(ま、まさか……)」
ずっと、憧れていた。
少女漫画でよくある――男の子からの、告白シチュエーション。
さっきまで威勢のよかった亮太は、いまでは視線を逸らしたいのを意地だけで堪えているような顔をして。
息苦しいらというか。どこか狭い場所へと追い込まれたような気持ちになる。
それはひとえに、無礼で、いけすかないこの男が、いつになく真剣そうな顔つきをしていたからだ。
「(どうしよう……)」
好きって言われたら、どうしよう。
なんて答えたらいいかな。
必死になって今まで読み込んできた少女漫画の主人公を思い出していく。
奈々実や美織に「亮太なんて興味ない」的なことを言った手前、ちょっと言いづらいかも。
言ったらきっと「ほれ見たことか」と散々からかわれるに決まってる。
でも、きっと喜んでくれるに違いない。
――――そう、心の中が甘い妄想でいっぱいになった時だ。