真愛
「さてと、一通り話したし戻るよね?紅瀬に」
当然戻る選択をする、という口振り。
まるで紅瀬行くのが当たり前とでもいいたいような。
「生憎ですけど、私は母の手を離れ絶縁してます。その契約は破棄するべきかと」
「うーん、君には悪いけどそうもいかないんだな。元々こちらの家の血筋が入ってるし、簡単に破棄なんて出来ない。一般人として暮らすならまだしも…久月なんかに渡せないんだ」
そういって真剣な表情になる綾牙さん。
自分達の手に渡るはずの私が久月にいるのは我慢ならない、ってとこかしら。
どこまで自分勝手なの。
私の知らない所でそんな契約を結ぶ意味がわからない。
それに紅瀬組が契約を結んだ理由が他にもありそうね。
「生憎ですけど、私は紅瀬組になんて行きません。今まで久月で過ごして、助けてもらった恩があります。尊の側にいると誓ったんです。だから、この契約は破棄します」
そういうと、綾牙さんの表情は一変した。
笑ってるはずなのに目が全く笑ってない。
その瞳の奥には黒い闇が渦巻いてるような、そんな感覚に陥る。
「本当にいいんだな?今のその言葉、後悔することになる」
そういい終えた後、いつもの表情に戻り出ようか、といわれたので後に続いてバルコニーを出る。
「あ、そうだ。いい忘れてたけど…俺、目的のためなら手段は選ばないよ?」
ニッコリと笑い、またねといって朱雀さんと人混みの中へ消えていった。
背中に冷や汗が伝う。
冷静を装うだけでいっぱいいっぱい。
こんなことで心を折っちゃダメ。
そう言い聞かせて椿さんと雪乃の元へ戻る。
綾牙さん、貴方がどんな手段を使おうと、私は尊の側を離れない。
けど、その決心は最悪の結果へと導いてしまう。
ねぇ、この時私が素直に紅瀬に渡ってたら…
尊やみんなは傷つかなかった……?