真愛
いつもと変わらずハイテンションで雪乃に抱きつこうとする楽の後ろから不機嫌な尊が歩いてくる。
きっと、私が玄関で出迎えなかったから。
いつもはすぐに玄関まで行っておかえり、というのが習慣なんだけど。
今はどうしても、そういう気になれない。
出迎えなかった事が相当ムカついたのか一言も発することなくもう1つのソファにドサッと座る。
今の尊は不機嫌MAXだろう。
そんな尊を不思議に思ったのか、楽が小声で私に耳打ちする。
「喧嘩でもした?アイツいつも奈々ちゃんに抱きつくくせに」
「…うん、ちょっとね。喧嘩ってわけじゃないよ」
「早く仲直りしなよー?アイツ奈々ちゃんから電話あった後、すごく上の空で仕事に手つけてなかったし。あんな尊初めてだよ」
「ごめんね。今日、ちゃんと話すね」
そういって申し訳なく笑った。
上の空だったんだ。
話の内容、わかってるのかな。
楽は私の頭を撫で、雪乃と足早にマンションを出て行った。
それは必然的に尊と2人きりになることを意味していて。
2人が出て行っても、しばらくは無言のままだった。
「ご飯…食べる?」
その沈黙を破ったのは私だった。
尊は歯切れが悪そうに、あぁとだけ呟いた。
私は自分の分はよそわず、尊の分だけ用意してテーブルに並べる。