真愛
「別れるのか」
突然口を開き、そんな事をいう尊。
俯きがちだった私もバッと尊の方へ顔を向ける。
尊の瞳には悲しみと冷たさが宿っている。
今まで冷たい目を向けられたことがなかったからか、背中に冷たい汗が伝う。
そんな目で私を見ないで…。
尊…どうしちゃったの…。
「別れたいならそういえばいい。聖藍の頭にでも惚れ直したか。誕生日会の前からコソコソしてたしな。それにまたつい最近から様子がおかしかった。そういうことだろ?」
冷たい瞳を私に向け、淡々と言葉を紡ぐ尊に恐怖さえ覚えた。
それと同時に私の頭に警鐘が鳴り響く。
今すぐ撤回しなければお前はまた1人だ。
でも今離れた方が尊は傷つかない。
誕生会で綾牙に言われたことを忘れたのか?
脳内で2つの感情が交差する。
尊を失えば私は1人だ。
唯一の友人である雪乃や赤の他人の私を本当の娘のように可愛がってくれる尊の両親。
ただの小娘の私を慕ってくれる組員の人、そして何より唯一の尊を失うことになるのだから。
でももし、綾牙が言っていることが本気なのであれば。
雪乃や楽、組員の方々、尊の両親、組自体、そして他でもない尊が傷つくハメになる。
みんなが傷つくなら、私は離れた方が…。
頭の中で考えを巡らせている時だった。
私の頬に、暖かな温もりが触れた。
それは紛れもなく、尊の手。