真愛



「別れたいわけじゃ、なさそうだな」

悲しさを瞳の奥に隠しながら、それでいて愛おしそうに私の頬に指を滑らせる。

尊のその行動にかけ巡らせた考えも一瞬で消え去る。

私はただ、口を開けて尊を見ることしか出来ない。

名前を呼びたくても声がつっかえて言葉にならない。

「どうしたんだ?どうしてお前はそんなに悲しげな顔をする?」

はっ、と息をのみとにかく自分を落ち着かせようと深呼吸を試みる。

しばらく大きく息を吸ったり吐いたりを繰り返し呼吸を整える。

「ち、がう、の…」

その言葉に尊は首を少し傾げる。

何がだ?とでもいいたいかのように。

私は頬に伝う尊の手を握り、言葉を繰り返す。

「違う、の。誕生会の前に私の様子がおかしかったのは…尊へのプレゼント代を貯めたくて」

「…プレゼント代?」

心底不思議そうな顔をして顔を顰める。

そりゃ尊から見れば私が家から出てるような様子はなく、ただ変だっただけ。

家事は今まで通りこなしてたし、ご飯だっていつも通り用意出来てた。

家を空けてバイトしてたなんて、夢にも思わないだろうね。

「瑠依…ほら、聖藍の幹部の子いたでしょ?私を倉庫で守ろうとしてくれた子。雪乃といる時に瑠依に会ってね?」

聖藍、という単語が飛び出すだけで心底嫌そうに顔を顰める。

尊は今でもまだ許せてないみたい。

まぁ、私も心なしかみんなとはギクシャクしてる気はする。

けどそんな顔しないでよ。






< 134 / 174 >

この作品をシェア

pagetop