真愛



もしかするとあの時に、何か吹き込まれた…とかか。

でも奈々を揺さぶって何になる?

休戦協定を結び、関係も良好…わざわざ抗争の火種になるような事を、あの綾牙がするはずない。

ましてや奈々は俺の婚約者だ。

当たり前、久月が黙ってるはずないと綾牙も承知のはずだ。

ならなぜ自分からこんな事を?

「紅瀬が何考えてるか知らねぇが、調べを進めて裏を…」

俺の話を遮るように、病室の扉が勢いよく開いた。

扉を開けたのは、息を切らし焦っている蒼聖。

その姿からただ事では無いのが受け取れる。

「蒼聖、何があった?奈々は一緒じゃないのか」

そう言うと、俯き口を閉じた。

その態度にイラつき、声を低くする。

「おい、奈々はどこだ」

「……た」

「何だ」

言葉に詰まりながら、蒼聖は告げる。

「…奈々さんが消えました」

「なん、だ…と…?おい蒼聖、てめぇ何してやがる!?」

「落ち着けよ、尊!…蒼聖、話を聞かせて」

深呼吸をして、奈々が車を出る際に言った一言、時間が経っても戻って来なかったことを話した。

「念の為、周辺をくまなく探し聖藍のメンバーにも話を聞きましたが、声をかけられた者は1人も居ませんでした。しかし…」

「何だ?」

「下っ端がたまたま見かけて、変に思って後をつけると公園へ向かったそうなんです。そしてそこに居たのが」

「…まさか」

「特徴、喋り方からすると…紅瀬 綾牙で間違いありません」



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