真愛
紅瀬組。
目の前には久し振りに拝む紅瀬組の門がある。
私は今日から、ここで生活をしなくてはいけない。
もうすでに尊や楽、雪乃や本家のみんなに会いたい。
…けれどそれは許されない。
自分で決めたはずなのに。
その決意が揺らいでしまう。
「どうした?奈々ちゃん。おっと、家族なんだから呼び捨てじゃなきゃな?」
ふっ、と笑って私の手を引き門をくぐる。
組員さんが挨拶をするけれど、私は俯いて黙っていた。
本当に…ここに来てしまったんだ。
気づくと、そこは大広間への襖の前。
綾牙さんは何も言わずにその襖を開ける。
そして大広間には大勢の組員さんと、その視線の先には袴を来た男性がいた。
強面で無表情…司さんとは違った威圧感がある。
しかしそのオーラから、組長であろう事は伺える。
この人が…紅瀬組、現組長であり綾牙さんの父。
そして…私の父親かもしれない人。
「連れてきたぜ、親父。奈々、挨拶しろ」
私は口を噤んだまま俯き、目を瞑った。
「はっ、生意気な所も母親譲りだなぁ?」
その言葉にムカつき、勢い良く頭を上げる。
この反応が予想通りだったのか、ニヤリと笑うその人。
「俺は紅瀬組現組長、紅瀬 虎次だ。お前の名前は?」
「…初瀬 奈々です」
「奈々か。お前に会うのは初めてだな」
「失礼ながらお聞きしますが、貴方は本当に私の父親なんですか?」