真愛
すると柑橘系の優しい香りが鼻をかすめる。
「頑張ったな」
「へ……?」
気付くと私は尊さんの腕の中にいた。
「もう強がるな。ここにお前を傷つけるやつなんか誰一人いない。お前を軽蔑した目で見るやつもいねぇよ」
そういわれて、瞼が熱くなるのを感じた。
気付くと私は涙を流していた。
何でたいして知らない奴にこんなに優しくできるの?
私は汚れてるのに。
何で私に触れてくれるの?
「お前を傷つける奴は俺が消す。だから…笑えよ奈々」
苦しそうに、優しく笑う。
そんなに苦しそうに笑わないで。
ぐっと胸が締め付けられるような感覚に陥る。
「聖藍なんかより、ここの方がよっぽど温かいよ、なーつん」
私を優しく撫でてくれる雪乃。
また更に涙が溢れる。
「ごめんね、雪乃。聖藍のファンだったのに」
「え?私、聖藍なんか好きじゃないよ?」
「え?」
初めてあった時から聖藍のファンだっていってたはずなのに。
あまりにきょとんとした顔でいう。
何でそんな嘘を?
「私ね、聖藍がこの世で1番嫌いなの。だからファンのフリして情報集めてたの」
早く消えてほしいしね、って物騒なことまで付け足して。
そんなことをいう雪乃の瞳の奥には、いい表せないような憎悪が感じられた。
雪乃も過去を背負ってるんだね。
「潰すか、聖藍」
「なに物騒なこというんですか!」
「俺はお前を傷つける奴を消したいだけだ。それに、元々消すつもりだったしな」
さすが極道。
本当に現実になりそうで怖いよ。
「まぁ、もっと情報集めて徹底的にやりたいから、俺はもう少し泳がせたいかな♪」
綺麗な笑顔でこれまた物騒なことをいう楽さん。
目が笑ってないですよ。
「あ、そういえば。奈々、お前敬語やめろよ?」
「え?何でです…」
「やめろよ?使ったら襲う」
「ごめんなさい、使わない」
「それでいい」
少年のように笑う尊。
不覚にもドキリと胸が音を立てた。