真愛
俗にいうお姫様抱っこ、というもの。
「おろして、私歩けるよ…」
「傷口が開いたらどうする」
「そんな簡単には…」
「いいから大人しく抱かれてろ」
有無をいわさず、下ろそうとしない。
確かに刺された所はまだ痛むし…。
渋々大人しくすることにした。
座敷を抜け、出口へ向かう間に出会う人は私たちを凝視して顔を赤くする。
みんなヤッさんみたいな顔なんだけどね。
それが面白くてくすくす笑っていた。
「何がそんなに面白い?」
「だって、みんなイカツイ顔なのに顔を真っ赤にするんだもの。尊は男まで魅了させるのね」
「お前…鈍感か?……まぁ、いい」
呆れたように溜め息を1つこぼす。
あら、何か呆れさせちゃったみたい。
無事に車に乗ると、尊が私に膝枕をする。
鼻歌を歌いながら私の髪をやさしくすく。
「なーんか後ろだけ空気違うよねぇ?」
「楽にぃ、尊さんは嬉しいの。そっとしとこ?」
「うげー、あんな尊見たことないから変な感じ」
いつもはこんなに表情豊かじゃないってこと?
一体どれだけ表情筋使ってないのよ。
しばらくされるがままでいると、意外と早く到着した。
到着した場所は繁華街から少し離れた場所。
この街で1番有名だとうたわれる高級マンション。
「なーつん、また明日も会おうね!もう毎日!」
「尊〜、狼になるなよ〜♪」
そういった楽を無言で殴って、私を抱っこしてマンションへ入る。
エントランスはキラキラしていて、カウンターがひとつ。
そこには身なりを正した男の人が1人いた。
「おかえりなさいませ、若。……その女は?」
「蝶」
「えぇ!!??」
驚いた途端顔を赤くする。
座敷の時と一緒だ。
とりあえず、ペコリと会釈をする。
エレベーターで上がっていくと、ついたのは最上階。
静かで、尊の足音だけが響く。
「静かだね、誰も住んでないみたい」
「ここ、下の3フロアしか人住んでねぇよ」
「え!?こんなに大きいのに!?」
10階以上の高さのあるこのマンション。
それがたった3フロアしか人がいない?
どんだけお金が有り余ってるの。
「っていっても、みんな組のもんだけどな。何かあった時のために住まわせてる」