真愛
「俺を見ろ」
私の頬を両手で包み、自分の目線と合わせる。
そこには瀧ではなく、尊の顔。
「みこ、と……?」
「あぁ、俺だ。ここはどこだ?」
「尊、の……いえ…」
「そうだ。俺は尊でここは俺の家。ここにはお前を傷つける奴はいない」
真剣な表情で私を見つめる。
するとポロポロと自分の目から涙が流れる。
心臓がバクバクと激しく動く。
息がしにくい。
「み、こと……」
掠れた声で呟くと、苦しげな表情で私を抱き締める。
一定の間隔で私の背をトン、トンと叩く。
まるで子供をあやすかのように。
「もう大丈夫だ。ここには俺とお前しかいない。聖藍なんかいない」
その言葉に涙の勢いは増す。
夢、だったんだ……。
私が落ち着くまでどれくらいの時間が経ったのだろう。
その間、ずっと私を抱き締めてくれていた。
尊の胸に顔をうずめ、柑橘系の香りを確かめる。
スカルプチャーじゃない。
瀧じゃない。
安心するようで、何だか悲しい。
隣にいるのは瀧じゃない。
呼吸も落ち着いた頃、私はゆっくりと尊から離れた。
「ありがとう…。ごめんね、驚かせたよね」
「こういうことはよくあるのか?」
「……うん」
私の体に染み付く“トラウマ”
毎晩のように繰り返されるあの悪夢。
ここまで酷いのは久々だった。
きっと、聖藍に会ったからだ。
あの瞳を思い出すだけで体が震える。
あれから数ヶ月経った今でも、あの日の記憶は消えない傷跡として刻まれている。
そう痛感させられる。
「とりあえず水飲め。すごい汗だ。拭くもの持ってくる」
そういってベッドを離れようとする尊。
反射的にシャツの裾を握り締めた。
「どうした?」
あまりにも優しい声で聞くから、俯き呟いた。
「もう少し…ここにいて」
やわらかく笑い、私のそばに座る。
何も聞かずに、ただそばに。
それがとても心地よかった。