真愛



洗濯をしたり家事をしてると、どこからか音楽が流れる。

携帯の着信音?

軽快なメロディーが部屋に響く。

その音は寝室から聞こえた。

行ってみると、ベッドの脇に黒いスマホ。

「あ、私のだ」

そういえば持ってたっけなー。

聖藍と連絡取れるようにって買ったけど。

廃姫になった今では一切使ってなかった。

処分するべきだったなーとか軽く後悔。

ディスプレイを見て、私は一瞬固まった。

「る……い…」

そう、聖藍の幹部である瑠依からの着信。

軽い過呼吸が起こる。

震える指で応答のボタンを押す。

「…もしもし」

平然を装い、何とか持ちこたえる。

「……よかった、切られるかと思った」

いつも元気な瑠依とは違い、暗い声。

少し掠れている。

「用件だけいって。この携帯、処分したいから」

「…会いたい、んだ」

「は……?」

何を言われたかわからなかった。

頭がフリーズ状態。

意味がわからなかった。

なんで今更私に会う必要があるの?

瀧達にまた酷いことをされて罵らせたいわけ?

「…会って、話がしたい。ただ、話したい。聖藍はいないから」

「信じられるわけ、ないでしょ」

言葉に詰まる。

喉からヒュッと音がする。

うまく息が吸えない。

「もし……もし会ってくれるなら、あの公園に来て。ずっと、待ってるから…」

そういって一方的に切られた。

なに、考えてるの。

教えてよ、ねぇ。

もしみんながいたら…?

私はきっと壊れてしまう。

もう元には戻れないくらい。

でも……瑠依はずっと何かをいいたがってた。

裏切り者だと倉庫で罵られた時も、繁華街の時も。

確かに止めなかったことに変わりはない。

けれど、いつも辛そうな顔をする。

……ほんとに、瑠依には甘いよね。

私は携帯だけを握り締め、マンションを飛び出した。

すぐ、帰るからね。

そう心で呟きながら。

道端でタクシーを拾ってあの公園へ。

繁華街からも学校からも離れた小さな公園。

そこは私と瑠依だけの秘密基地。

2人でケーキを食べたり、みんなにいえない相談をしてたっけ。

まだきっと、瑠依だけは信じてたいんだ、私は。

自分でも馬鹿だって思う。

けど、あの日見た瑠依の顔は、私に何かを伝えたがってた。

それを……確かめなきゃ。






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