真愛
私は目から零れ落ちる涙を拭って、マンションへ急いだ。
早く、早く尊の元へ帰りたい。
この苦しい気持ちを……。
全て包み込んで……。
エントランスへ向かう途中、楽に出会った。
すごく焦った顔で私に駆け寄ってくる。
「奈々ちゃん、どこいってたの!?とりあえず、尊が大変。来て」
「え、どういう……」
「見たらわかるから」
エレベーターに飛び乗って、最上階へ。
尊の部屋まで終始無言だった。
カードを通して中へ入ると、ガラスや色々なものが散乱している。
中には割れているものや壊れたものも。
リビングへ急ぐと、ソファに抜け殻のように座る尊の姿があった。
「なに、これ…」
私の声にすかさず反応する。
そして私を自分の胸に収め、きつく抱き締めた。
「お前が…攫われたと思った。何かあったら、そう思ったら…」
ごめんね。
私はそういうしかなかった。
心配かけちゃったみたい。
そりゃ帰ったらいないんだもの。
「瑠依にね、会いに行ってたの。ほら、処分し忘れてた携帯に連絡があって」
「瑠依?誰だそれ」
「ほんとに尊って人に興味無いよねぇ…。聖藍の幹部だよ」
「…聖藍だと?」
尊の纏うオーラが一瞬で変わる。
私でもわかる。
強い殺意が感じられる。
「何であんな奴らなんかに会いに行った?また痛い目みたかったのか」
「違うよ。賭け、だったの」
「賭け?」
尊と楽の声が重なる。
私は一通り、起きたことを話した。
包み隠さず全てを。
「ふーん、潰してあげようか」
「何でそうなるのよ、楽。ほっておけばいいじゃない。もう関係ないわ」
みんなは何も知らずに生きていけばいい。
今更、話す必要も無い。
「今は目をつぶっててやる。でも、次何か起こしたら…潰す」
そういった尊の目は確かに組の若頭の目だった。
孤高の獣。
その言葉が似合う黒く澄んだ瞳。