真愛
「…な………奈々、起きろ」
「ん…?」
その声に目を覚まし、まだ眠たい目を開けるとすぐ目の前に尊の顔があった。
「…近い。びっくりした」
「仕事、終わった」
「え、早くない?」
時計を確認すると、私が眠って2時間弱。
こんな短時間であの量の仕事終わらせるなんて。
バケモノなのかな、この人。
普通無理だからね、ほんとに。
机に高く積まれていた大量の資料は跡形もなく消えていた。
「楽、早く車まわせ」
「ほんとに人使い荒くない?ったく…ちょっと待っててよ」
ため息をつきながらも社長室を出ていった。
尊に付き合えるのって楽しかいないと思う。
ワガママ大魔王……。
そう思ったことは内緒にしておこう。
「ほら、行くぞ奈々」
「蒼聖さん、ありがとうございました。紅茶、美味しかったです」
「いえ。またいらして下さい。本家でお会いした際もよろしくお願いします」
そういって、礼儀正しく頭を下げる。
なんて綺麗なお辞儀。
尊敬しちゃうね、ほんとに。
私も深くお辞儀をして社長室を出た。
尊は変わらず私の腰に手を回し、自分に引き寄せて歩く。
人の視線がすごく痛い。
目立ちたくないんだけどなぁ。
視線をなんとかスルーして車に乗り込む。
「じゃ、車だすね〜」
呑気に鼻歌を歌いながら車を発進させる。
なんかルンルンしてる?
「ねぇ、どこに向かってるの?マンションとは反対方向な気がするんだけど」
「本家」
「はぁ!?本家!?」
「そ、本家」
何食わぬ顔で意味のわからないことを発する。
え、なんで本家?
この前は私が刺されたから仕方なかったけど…。
行く用事なくない?
それに私みたいな一般人が入っていい場所でもない。
……と思う。