真愛
「前に話した、俺の蝶だ」
そういうと2人は目を見開いた。
しばらくの沈黙。
私はこの空気に耐えられず口を開いた。
「も、申し遅れました!初瀬 奈々と申します。え、えと…尊、さんに拾われまして?た、助けてもらった?です...!!」
一瞬で後悔した。
言葉カミカミだし、日本語おかしいし。
絶対頭おかしいと思われた。
死にたい。
恥ずかしさと緊張で私の頭はショート寸前。
「「……ぶふっ」」
突然、2人が吹き出した。
尊に助けを求めようと横を見ると、笑いをこらえていた。
「ふふ、面白いわね、その子」
綺麗な顔でくすくすと笑う。
笑顔も綺麗な人…。
って、呑気にしてる場合じゃない!!
「申し遅れた。俺は久月組の組長、久月 司(つかさ)だ。息子が世話になってる」
深々と頭を下げるもんだから、私もつられて頭を下げる。
「久月 椿(つばき)よ。よろしくね?」
女神のような微笑みでコテンと頭をかしげる。
1つ1つの動作が美しすぎる…!!
こんな人、この世で見たことない。
……私も女磨かなきゃ。
「俺はコイツと婚約しようと思ってる」
「ちょっと、尊!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて座り直す。
「付き合ってるのか」
「いや、まだだ。でも、俺はコイツしか選ばないと思う。奈々しか、俺は愛せない」
キッパリと言い切る尊。
その言葉にまた胸が高鳴る。
「なぜその子がいいんだ」
「俺は女なんてただの道具だと思ってた。俺を見るなり、目の色変えて言い寄る女。俺の若頭っていう肩書きだけを手に入れたいだけの女。こんな汚れきった世の中に嫌気がさしてた。そんな時に、俺は繁華街で歩いてる奈々を見つけた」
私を見て、愛おしそうに微笑む。
本当に心から愛しているかのように。
「真っ暗で色のない世界に光を灯してくれた。一目見た瞬間から、コイツだって感じたんだ。悲しげな瞳をした奈々を、幸せに…愛してやりたいと思った。他の組の奴らに追われて、周りが変な目で見る中、コイツは俺に近づいて手当してくれた。それで確信したんだ、俺には奈々しかいねぇ」
そういえば、ずっと前に路地裏で倒れてる所を見た気がする。
私の知らない所ですでに出会ってたんだね。
心の中が愛しさで埋め尽くされる。
こんなにも真っ直ぐに私を愛そうとしてくれてる。