真愛
「なっちゃんっ…!!!」
瑠依が私に駆け寄り、瀧から引き剥がす。
それと同時に私は地面に嘔吐した。
スカルプチャーの香り、あの日の倉庫。
言葉、みんなの目、全てがフラッシュバックした。
勢いを増す吐き気を私は抑えられず吐き続ける。
「なっちゃん、しっかりして!!なっちゃ、」
瑠依の呼びかけを遮るように倉庫内に轟音が響く。
いくつかの足音が聞こえる。
張り詰めた空気と共に私の鼻を刺激する…柑橘系の香り。
「テメェら、俺の女に何してやがる」
尊の地を這う低い声に空気が張り詰める。
周りの声がざわついた。
「あれって……!!」
「久月組の若頭…尊さん……!?」
「何でこんなところに……!」
コツコツ、と足音が近づき私のそばで止まる。
「待たせたな、怖かったな」
そういって私を強く抱き締めた。
あぁ、尊だ。
柑橘系の香りに安心して、静かに涙を流す。
迎えに、来てくれた。
よく見るとそのすぐ後ろには楽と蒼聖さんの姿。
「み、こ…と……」
「震えてる。こんなんなるまで…すまねぇ……」
今にも泣きそうな顔をするもんだから、頬に手をあて、慰めるように触れる。
「だ、じょぶ……大丈、夫…だから」
私を楽に預け、瀧の所へ真っ直ぐ歩く。
そして思いっきり殴った。
殴られた衝撃で後ろにあるドラム缶に衝突し、大きな音を立て崩れる。
「テメェ…自分がしたことわかってんのか!!??」
そして近くにいた瑠依の胸ぐらを掴み、腕を振り上げる。
「だ、め……瑠依は…まも、って…くれた、の……」
そういうと手を離す。
当の瑠依は相当苦しかったのか咳き込んでいる。
それだけ、今の尊は怒り狂っている。
「テメェら、奈々に何をした?」
「ただ、俺らは謝りたくて…」
「はっ、謝りたくて?テメェら何考えてんだ!!!!」
尊の声が倉庫中に響き渡る。
いつもの余裕なんて微塵も感じられない。
「裏切り者と罵って、蔑んで、暴行を加え精神的に追い込んで、殺人未遂まで犯したやつがごめんなさいで済むと思ってんのか!!!!わかってんのか?あれから奈々はずっと怯えて暮らしてんだよ、苦しんでんだよ!!!消えねぇ傷跡とトラウマ植え付けてごめんなさいで許してもらう?テメェらの脳みそどんだけ腐ってんだよ!!!!!」