真愛



「そうか、頑張ったな、奈々」

あまりにも優しい声でいうもんだから、涙腺が緩んでくる。

尊に慰めてもらってるみたい。

家族の温かさを知らない私の心には充分染みる。

「ありがとうございます、お母さん、お父さん」

「あら、親子なんだから敬語はなしよ?」

くすくす笑って椿さんがいった。

それもそうだ、と司さんが笑う。

ほんとにこんなに幸せでいいのかな?

温かすぎてどうにかなっちゃいそう。

家族ってこんなに温かで愛おしいものなんだと、心から実感した。

「俺がいない間にずいぶん仲良くなったな」

「尊!おかえりなさい」

「ん、ただいま」

ふっと笑って私の頭を撫で隣に座る。

「帰ってくるの早かったわね?」

「仕事が案外早く片付いた。それに、早く奈々に会いたかったからな」

不意打ちでいわれ、不覚にも照れてしまう。

親の前でそんなにデレないでよ。

こっちが照れるわ!

「最近、尊の表情がすごくやわらかくなったわよね!これも奈々のおかげかしら?」

「いえいえ、そんなことは…」

「組の奴もみんないってるぞ。若が人間らしくなったってな」

「いや、俺人間なんだけど」

このやり取りについ吹き出してしまう。

親子でコントでもしてるの?

ツッコミが鋭い…w

「それもこれも奈々のおかげね!」

「いえ、私も尊と出会ってなきゃこんなに人に優しくなれなかった。小さい頃のままだったら、きっと」

あの頃のままなら、私はここまで大人になれなかった。

人の愛情を知らずに生きていくことになった。

心も開けずに生きたかもしれない。

「私は、ずっと愛されずに育った。愛情を知らずに生きてきた」

私が向き合わなきゃいけない、もう1つの過去。

乗り越えなきゃいけない壁。

みんなに、知ってもらわなきゃいけない。

もう隠して生きるのは、こりごりだもの。

「私の親、誰だかわからないんです」

「「「え?」」」

親子3人の声が重なる。

それもそのはず。

普通なら父親、母親1人ずつ。

普通なら、ね。

「正確には、母親は1人です。けれど、父親が誰かわからない。だから…私は愛されずに育った」

私の消したくても消せない過去。

忘れたくても忘れられない傷。

思い出すだけでむせ返るような…そんな、記憶。

今でも鮮明に思い出せる。

あの地獄で過ごした、闇のような日々を。





< 71 / 174 >

この作品をシェア

pagetop