真愛
「そうか、頑張ったな、奈々」
あまりにも優しい声でいうもんだから、涙腺が緩んでくる。
尊に慰めてもらってるみたい。
家族の温かさを知らない私の心には充分染みる。
「ありがとうございます、お母さん、お父さん」
「あら、親子なんだから敬語はなしよ?」
くすくす笑って椿さんがいった。
それもそうだ、と司さんが笑う。
ほんとにこんなに幸せでいいのかな?
温かすぎてどうにかなっちゃいそう。
家族ってこんなに温かで愛おしいものなんだと、心から実感した。
「俺がいない間にずいぶん仲良くなったな」
「尊!おかえりなさい」
「ん、ただいま」
ふっと笑って私の頭を撫で隣に座る。
「帰ってくるの早かったわね?」
「仕事が案外早く片付いた。それに、早く奈々に会いたかったからな」
不意打ちでいわれ、不覚にも照れてしまう。
親の前でそんなにデレないでよ。
こっちが照れるわ!
「最近、尊の表情がすごくやわらかくなったわよね!これも奈々のおかげかしら?」
「いえいえ、そんなことは…」
「組の奴もみんないってるぞ。若が人間らしくなったってな」
「いや、俺人間なんだけど」
このやり取りについ吹き出してしまう。
親子でコントでもしてるの?
ツッコミが鋭い…w
「それもこれも奈々のおかげね!」
「いえ、私も尊と出会ってなきゃこんなに人に優しくなれなかった。小さい頃のままだったら、きっと」
あの頃のままなら、私はここまで大人になれなかった。
人の愛情を知らずに生きていくことになった。
心も開けずに生きたかもしれない。
「私は、ずっと愛されずに育った。愛情を知らずに生きてきた」
私が向き合わなきゃいけない、もう1つの過去。
乗り越えなきゃいけない壁。
みんなに、知ってもらわなきゃいけない。
もう隠して生きるのは、こりごりだもの。
「私の親、誰だかわからないんです」
「「「え?」」」
親子3人の声が重なる。
それもそのはず。
普通なら父親、母親1人ずつ。
普通なら、ね。
「正確には、母親は1人です。けれど、父親が誰かわからない。だから…私は愛されずに育った」
私の消したくても消せない過去。
忘れたくても忘れられない傷。
思い出すだけでむせ返るような…そんな、記憶。
今でも鮮明に思い出せる。
あの地獄で過ごした、闇のような日々を。