真愛
ーーーー17年前。
私は初瀬 奈々として、この世に生を受けた。
物心ついた時から、家庭は冷えきっていた。
目が覚めると、下の階にある母の部屋からはいつもとは違う母の声。
ドアの少しの隙間から見えるのは、知らない男に跨って鳴く母の姿。
冷蔵庫を見ても、食べれるようなものは無い。
あるのはたくさんの酒。
母は毎日酒をあおっていた。
朝から晩までずーっと。
ご飯もろくに与えてもらえなかった。
私が死のうと、どうなろうと母はどうでもよかった。
なんせ、私を見る母の目は…ゴミを見るような目だったから。
情事を終え、知らない男と部屋を出てくる母。
その目はやっぱりゴミでも見るような目。
「君が奈々ちゃん?」
「…おじさん誰」
「あんた口の聞き方にも…!!」
「いいよ。初めまして、お母さんのお友達だよ」
友達があんなことをしないと、幼いながらにわかっていた。
この人は、母のカモに過ぎない。
金づる。
毎日母が言葉にしていた。
その証拠に家に出入りする男はみんな違っていた。
男によってコロコロと態度を変える母。
うまく金を引き出す術だと私は知っていた。
「それじゃあ、また来るよ」
「ええ、待ってるわ!」
ドアが閉まり、男が出て行くと母は表情をコロッと変え、私を殴りつけた。
「アンタのせいで下手打つところだったじゃない!!あの男はねぇ、まだまだ金を持ってるのよ!せっかく捕まえた金づるを無駄にするところだったじゃない!!」
そういって私を殴り続ける。
どれくらいの時間殴られていたのか。
やっと母も落ち着いて殴る手を止めた。
「ほんと、気味の悪い顔。誰に似た顔なのかしら?まぁ、誰が父親かもわからない小娘を愛す義理なんてないけどね」
皮肉に笑って鋭い言葉を放たれる。
そんな日々にももう慣れた。
私の親はこの人じゃない。
そう思って生活していた。